ある日、ご入居者K様の居室をお訪ねした私は、よもやま話の後、単刀直入に尋ねました。
「K様、叶えたい夢は何ですか?」
「夢ねえ・・・。」
やがて独り言のように語られたのは、K様がまだお下げの女学生でいらした70年前のこと。同級生が演奏するピアノに憧れた想い出でした。
「父が許してくれず、私はピアノを習わせてもらえなかったの…。」とK様。
K様は、戦争中に京城(韓国)で新婚時代をお過ごしになりました。その後、三人のお子様に恵まれると、K様は三人のお子様にピアノを習わせました。K様はピアノへの憧れをお子様たちに託されたのでしょう。
そしていまから40年ほど前、K様一家は秦野に家を建てられると同時に、K家に待望のグランドピアノがやって来ました。初演奏は、次女の晴美様でした。K様のお母様も四国から遊びにいらしていたと、K様は当時のことを鮮明に覚えていらっしゃいました。
その日、K家に流れたグランドピアノの音色は、それはそれは美しかったそうです。お話をして下さるK様の耳には、今もその音が聴こえているようでした。
「夢は、グランドピアノでショパンを聴きたい。」とK様はおっしゃいました。
K様は目がご不自由になられ、お楽しみ頂けるレクリエーションが限られてしまいがちですが、音楽のレクリエーションは毎回楽しみに参加されていらっしゃいます。生活相談員である私は、何とかしてK様の夢を叶えて差し上げたいと思いました。
K様から伺ったこのお話をご家族様にお伝えすると、K様の夢を受け継ぎプロのピアニストとして活動している娘様の晴美様、お孫様の千穂様がボランティアで演奏を引き受けてくださることになり、K様の夢が実現する運びとなりました。K様は当日を楽しみにされ、毎日大好きな音楽を聴いていらっしゃいました。
9月4日(水)、秦野市文化会館にて、K様の輝きプラン『ピアノ演奏と語り ~アート作品上映のコラボレーション~』が開催されました。当日は、ボンセジュール秦野渋沢のご入居者様やご家族様、当社他ホームからのご入居者様とスタッフ、その他近隣の高齢者施設の方や地域の方々を含む、総勢167名もの方々にご参加頂き、盛り上がりのあるコンサートとなりました。
ご参加いただいた方からは、「ピアノ演奏が素晴らしかった。」「この企画に至るお話も物語があってよかった。」「アート作品も音楽にマッチして美しく楽しく見れた。」等々、沢山の嬉しい声を頂くことが出来ました。また、ご家族様からは感謝の言葉を頂き、このコンサートが親子の心の交流のイベントになれたのではないかと感じています。
ボンセジュール秦野渋沢 生活相談員 松浦 美世



輝きプランの企画を立てた時には、これほど多くの方々に関わっていただけるとは想像もしませんでした。
無事、実施できたことに感謝の気持ちでいっぱいです。これからも、お客様、地域の方々、多くの皆様と輝きの場を創造できるよう邁進していきたいと思います。
吉川 和憲
多くの方から心強い応援をいただき、コンサートを無事終えることができました。心から感謝しています。
当施設で現在ただお一人視覚障害のあるK様に、これからも孤立することのない支援を行っていきたいと思います。
松浦 美世(生活相談員)

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